創業60年以上の歴史を持つ伊那の「たまや菓子店」(伊那市荒井)が12月31日に閉店する。
この時期に予約が多い餅は、切り餅や丸餅など希望に応じて成形する
正月用の餅や大福、おやきなど、たまやの味を求める客で店は連日にぎわいを見せる。店主の若林忠男さんと妻ふみ子さんは12月25日も早朝2時から作業を開始。予約の餅の対応や、店頭に並べる大福などを連携しながら休むことなく作り続けた。
忠男さんは「もう少しでゴールを迎えるけど、正直言うと名残惜しさもある。また落ち着いたら、和菓子屋はできなくても、山菜の総菜などを販売して、細々とでも自分たちの特技で商売をやっていけたら」と話す。
今年は原材料費の高騰に苦しみ、特に米の価格高騰は影響が大きかった。ふみ子さんは「過去にも何度か値上げに踏み切ったことがある。そのたびに、お父さんはお客さまの満足度が下がらないよう、商品のサイズを大きくしてしまう」と笑う。「『新草餅(しんくさもち)』が話題になって、たくさんのお客さんがいらして普段の3倍ほど作った。忙しかったけど最後の年にたくさんのお客さまがあってうれしかった」とも。
この日は孫の朝美さんが横浜から応援に駆け付けた。「手伝いになっているか分からないですが」と笑いながらも客の注文した餅や大福を素早く包装し、会計に応じていた。
職場の同僚におやきと大福を買い求めた伊那市の60代女性は「実は店の存在を知ったのは今年に入ってから。それなのに年末に閉店と聞いてとても残念。週に1度でも、きまぐれでもいいから、また店を開いてほしい」と話す。
二人三脚で伊那市の移り変わりをこの場所から見守ってきた。ふみ子さんは「閉店したらお茶でも飲みに来てね。ここにいつもいるから」と、常連客に穏やかに声をかけ見送っていた。
営業時間は9時~19時。